今日のできごと ~切ない編~

 月曜の朝、駅の改札口前で肩掛けバッグの中のPASMOを探すおばあちゃんと、それを怒鳴りつける男性とに会いました。そんなに怒鳴ったら探すものも探せなくなる…と思いながら私は改札内から二人をみていました。乗りたい電車までの時間が無かったけれど(結局乗り損ねて遅刻しましたが)どうしても素通りできませんでした。結局男性が切符を買いあたえ(「あたえ」という感じでした)、怒鳴り怒鳴られながら二人は改札を通ってきました。とりあえずおばあちゃんに「切符は(男性に)預けよう」と言い、私と3人で一緒にホームまであがりました。

 おばあちゃんのニット帽がゆるくて目までも覆ってしまうのね。「前が見えないよぉ」と言っていますがつかまっている男性の歩くスピードに引っ張られ「見えない、見えない」と言いながらホームのベンチまでたどりつきました。ひざが痛くて(そのスピードで)歩けないとも言っていました。腰もだいぶ曲がっています。男性は「甘やかしたらいけない、家でも食べて寝てるだけだ」と声を荒げます。おばあちゃんは80代か90代くらいに見えました。

 同じ方向だったので同じ電車に一緒に乗りました。車内でわたしとおばあちゃんだけ椅子に座り、男性は私達に背中を向け窓の外を向いてドア前に立っていました。座って話す中で女性が75歳であることを知りました。そしてPASMOはちゃんとバッグに入っていました。それからニット帽は「前を少し折りたためば(前が)見えるかな」と聞かれましたが、これは折っても落ちてくると分かったのでそれを伝えました。手袋をされていましたがこれをしていたら余計にPASMOなんてこの小さなバッグの中から探せないと思いました。「手袋は暑かったらポケットへしまって(これが無いだけでも心配が減ると思いました)」と話しました。座って探せばきちんと分かりやすい所に入ってましたから。女性は腰が曲がっていることと膝が痛くて普通に歩けないこと以外は健康で、よく聞こえ会話もしっかり出来る人だと分かりました。男性に「息子さんですか」と言っちゃったのですが旦那さんでした。それくらい彼女が歳上で男性が若く見えたのでした。電車を降りてまた二人になった時に、男性を怒らせたくない、怒鳴らせたくないと思って乗っている間PASMOの入っている場所を二人で確認したり「大丈夫よ」と重ねて申したような記憶です。

 お二人が電車を降りる時がきました。「お父さん よろしくおねがいします(お父さん よろしくね)」的なことを私は男性に言ったと思います。彼女は彼のことを「お父さんが…」「お父さんが…」と話していたので私もそう呼びました。肩もポンとたたいたというか、そんな感じだったと思います。

 ゆいこちゃんにもらった不二家のハートチョコがバッグに1つ入っていたので、お父さんにあげたかったです。けれどもこんな時代だから、知らない者がたとえ未開封でもチョコをあげるのはよくないようにも思って躊躇して出来ませんでした。でも甘いものがあるだけで、このハートチョコがあるだけで和らぐのではないかと心の中では思っていました。 

 お父さんは降りる瞬間、さいご私に「親切にしていただいて ありがとう」って言いました。あんなに怒鳴っていた人が、背中で私とおばあちゃんの会話を4駅のあいだずっと聞いていたんだと分かりました。そして彼もつらいんだと、苦しいんだと痛いほど分かりました。おばあちゃん70代だったので、まだこれから5年、10年と2人の生活は続くと思います。その事とお父さんの心情を想うと切ない気持ちもありました。週に一度でも月に一度でも3人で一緒にお茶でも出来たならどんなに良いかと思いました。3人目がいればどんなに良いかと思いました。一瞬でも二人が大笑いするようなシーンが、これからの暮らしの中で一度でも多くありますようにと願います。ハートチョコかキャラメルを1つか2つ、いつも持っていた方が良いかなと思った今日のできごとでした。

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